現代社会における仏教の潮流

 仏教の各宗派が、いま世界で一番集まっている都市は、どこだと思われますか? それは、バンコクでも京都でもなく、なんと、ロサンゼルスなのです。このアメリカ第二の都市には、現在、東南アジア、チベット、中国、ベトナム、韓国、台湾、日本などから伝わった八十を超える宗派が集い、共存しているのです。

 この現象は、仏教がアメリカ合衆国で伸びていることの一端を示すものです。いまから二千五百年ほど前に東洋で発生した宗教が、今日あらゆる面で世界をリードしている西洋の超大国で、多くの人の関心を惹いていることは、非常に興味深い現象であると言わざるをえません。

 仏教は、キリスト教、イスラム教と並んで世界三大宗教の一つです。世界の仏教徒は約5億人と言われています。その大半は東南アジア、中央アジア、そして日本を含む東アジアに存在しますが、近年、アメリカをはじめとする欧米諸国においても仏教人口は着実な伸びを見せています。現在、アメリカの仏教徒の人口は約三百万人となり、ヨーロッパでは約百万人になっています。(中略)

 三百万人のアメリカ仏教徒は、人口の約1%に当たります。これに、正式な仏教徒ではないものの仏教に何らかの影響を受けている人たちを含めれば、この数字は数倍にまで跳ね上がると思われます。最近の調査によれば、「仏教に何らかの重要な影響を受けた」というアメリカ人は、約二千五百万人という驚くべき数となっています。(ケネス・タナカ著『アメリカ仏教』序章より)

 

科学の宗教

 アメリカでは、十九世紀半ばのダーウィンの進化論の登場以降、科学の進化論とキリスト教の創造論の矛盾が浮き彫りになり、科学の側からのキリスト教への批判が高まっていました。この矛盾によってキリスト教に不満を持ったり失望したりした人たちは、別な宗教や思想を求めたのです。その中の一人ポール・ケーラスは、この矛盾を解消してくれる「科学の宗教」というものを求めていました。そこで、1893年の万国宗教大会に参加して、アジアからの仏教代表者の講演を聞き、仏教こそが求めていた「科学の宗教」であると大いに喜び、熱烈な仏教の支持者となっていったのです。(中略)

 そしてこの仏教の支持は、仏教徒科学の真理が同じであるという考え方に基づいているだけでなく、仏教の真理は科学の方法以外では証明されないとまで言い切っています。

アインシュタインの見解

 二十世紀の科学を代表するアルベルト・アインシュタイン(1875~1955)は、仏教についてこのような発言をして、高く評価されています。

 未来の宗教は、広大無辺の宗教になります。それは、人格的神を超越し、硬直した教義や神学を避けなければなりません。自然と精神の両領域を含み、自然と精神のすべてが、有意義な一体として体験される宗教的感覚に基づかなければならないのです。・・・仏教こそこれらの要素を持っています。もし近代科学に対応できる宗教があるとすれば、それは仏教です。

 アインシュタインがここで言う「広大無辺の宗教」とは、「畏れの宗教」、「道徳の宗教」および「広大無辺の宗教」という三種類の宗教観に基づくものです。未開の社会では、餓死、猛獣、病気、死などへの畏れに対して「畏れの宗教」が誕生しました。次に、社会が発展するにつれて人々は教訓や愛というものを求め、それに答える人格的な神を設定し、その神によって人々は報われたり、罰せられたり、守られたりされるのです。これが「道徳の宗教」です。

 「広大無辺の宗教」は、人格的な神などを否定するので、優れた素質を持つ個人やコミュニティーによってしか理解されません。彼らは、人間の欲望の無意味さを知っており、逆に自然界や人間の思想の素晴らしさを求めます。その中で、彼らは宇宙を統一したものとしてとらえようとします。この点は、ここで自然と精神が有意義な一体という関係にあると表現されています。

 科学との関連で注目するべき点は、仏教こそが自然と精神が別ではなく有意義な一体であるという宗教観を持っているということです。アインシュタインもケーラスのように、科学と仏教は矛盾しないという考えを提唱したといえましょう。

アメリカで人気の仏教関連書物

1.『葉っぱのフレディ』

 この本は、正式な仏教書でもなく、「仏教」という言葉すら出てきません。しかし著者のことを調べた結果、仏教に強く影響されたことが判明しました。その一節を紹介しましょう。

「ぼく、死ぬのがこわいよ」とフレディが言いました。

「そのとおりだね」とダニエル(友だち)が答えました。「まだ体験したことがないことは、こわいと思 うものだ。でも考えてごらん。世界は変化し続けているんだ。変化しないものは、ひとつもないんだ。春が来て、夏になり、秋になる。葉っぱは緑から紅葉して散る。変化するって自然なことなんだ。君は、春から夏になるとき、こわかったかい? 緑から紅葉するとき、怖くなかっただろう? ぼくたちも変化しつづけているんだ」 

「死ぬというのも、変わることの一つなのだよ」 

変化するってことは自然なことだと聞いて、フレディは少し安心しました。

このようにダニエルの説明は実に、仏教で説く「諸行無常」に相当します。

 

2.二つ目の本は、リチャード・カールソンの『小さいことにくよくよするな!しょせん、すべては小さなこと』で、アメリカでは数百万部売れました。この本には仏教の考えがいくつかあり、その一つは、「仏教の教えでは、苦難することは人の心の成長や平安に欠かせない」というものです。そして、もう一か所では、「私にふさわしい苦難を与えてください。そして、私の心が目覚めて解放され、宇宙と一体になれますように」とチベット仏教者は祈ると説明しています。

 

3.三つ目の本は、ミッチ・アルボム氏の『モリー先生との火曜日』という本です。これはミッチというスポーツ記者が自分の大学時代のモリーという教授との対話を描いたものです。大学時代に唯一尊敬できた先生が癌で余命6か月であると知り、最後の6か月間、毎週火曜日に飛行機に乗って見舞いに行くのです。先生は死に直面しながらミッチに、人生の大切なことについて話します。

「執着するな」ということは、ただ「無関心になる」ということではなく、苦しみの気持ちを「徹底的に味わうこと」であると、先生は説明します。すなわち、自分の病気の痛みと恐怖を徹底的に体験することで、病気や死の恐怖を受け入れることができるようになるというのです。(後略)

 ここまで、ケネス・タナカ著『アメリカ仏教』から引用させていただきました。仏教は科学と矛盾しないがゆえに、多くの他宗教の人々にも受け入れられています。真実の教えの学びを深めていきたいものです。